https://mainichi.jp/articles/20220620/ddl/k25/040/160000c
「オシャレは足元から」は至言だ。何も超高価な靴でなくていいし、珍しいスニーカーを収集する必要だって全然ない。要は、目立たないところにもきちんと気を配れるかどうか。それこそ「足元を見られる」という言葉もあるぐらいだ。
大手の靴販売店で店長をしていた川原勲さん(59)が「八幡靴」を知ったのは、たまたま読んだ新聞の記事だったという。「伝統」「高級感」「履きやすさ」と何拍子もそろっている。「それだったら……」と店に置いてみた。ところが、まるで売れない。「やぼったいと思われたんですよ。見た目が典型的な『おじさん靴』だったんで」。商売は難しい。だが、川原さんは諦めなかった。「手ごろな価格のオーダーに特化して作ったら、ほしいという人が必ず出てくる」と考えた。それだけの逸品だと確信していた。
八幡靴はその名の通り、明治のころから近江八幡で作られ続けてきた手縫いの革靴。多くの靴職人が腕を競い、紳士靴の町として名をはせた。当地に住んだ米国出身の建築家、ヴォーリズも八幡靴を愛用した1人。帰国後に修理に出したら「素晴らしい靴だ。見たことがない」と驚かれたという逸話も残っている。